自己紹介

オンライン遺伝カウンセリングルームジーヌ代表。日本で唯一認定遺伝カウンセラーと生殖医療診断士、両方の資格を持つカウンセラーです。長年不妊治療クリニックで遺伝カウンセラーとして多くの患者様の相談をお受けしました。 現在は、不妊治療患者さんのためのオンラインカウンセリングルームジーヌを主宰しています。 特に、PGT-A・PGT-SR検査に関しては、日本産科婦人科学会の認定制度の発足以前より、PGTを希望されるカップル(ご夫妻)延べ5,000組、10,000名にカウンセリング、さらに、PGTの結果として検出されるモザイク胚の移植についての相談も1000件以上受け、多くの健康なお子さんの誕生のお手伝いをさせていただいております。

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2024/05/24

PGT Ⅱ. PGT技術の変遷①

 1990年代初め、PGTが開発された当初は、重篤な遺伝性の病気をもつ子の出生を防ぐことが目的であり、性染色体劣性(X染色体潜性)遺伝病の発生予防として胚(受精卵)がY染色体をもつか持たないかを判別し、Y染色体をもたない胚を選択的に移植する、というところから始まりました。

ヒトゲノムに含まれる30億個の塩基対全てを解読するというヒトゲノム計画が始まったのが1990年、完了宣言が2003年ですから、遺伝子の配列を解読することは今では想像もできないほど難しかった時代ですね。

胚から採取した1個か2個の細胞の染色体を調べる方法として主にFish法が用いられました。Fish法とは、ある染色体の特定の部分のDNA配列にのみ張り付くことのできるプローブと呼ばれるDNA断片を蛍光標識してスライドグラスの上に潰して張り付けた胚由来の細胞と反応させ、目的とする蛍光シグナルが検出できるかどうかを判定するという方法です。

その後、Y染色体だけではなく、ダウン症の原因となる21番染色体、病気をもった子が生まれる13、18番染色体、X染色体などを調べればそのような症状を持った子が生まれることを避けられる。さらには、染色体異常による流産、移植後の着床不全なども防げるだろうと、調べる染色体の種類が増えていきました。また、PGTの目的も病気の子の出生を防ぐというものから、染色体の数的異常胚を排除することにより体外受精の成績を上げるというものに変化していきました。

Fish法は技術的に難しく、精度も低い、また24種類すべての染色体を同時に見ることは不可能で、一度検査を行った後プローブを洗い落として、再度別のプローブで検出するということが行われていました。

当時は培養方法も、凍結方法も、今ほど進んでいなかったので、3日目くらいの分割期の胚から細胞を1つか2つ採取して検査を行い、採卵した周期に移植をするという新鮮胚移植を行っていました。


これらの技術的な問題は大きく、当時すでにヨーロッパやアメリカでは多くのPGT-Aが行われていたのですが、2011~2013年ごろヨーロッパの生殖医学会で、PGT-Aを行うとPGT-Aをしない場合に比べて有意に出生率が下がるという研究結果が発表され、世界に衝撃が走りました。

2024/05/23

PGT Ⅰ. PGTとは

卵子と精子が出会い受精したのち発生が進むと胚と呼ばれるようになります。

PGT(着床前遺伝学的検査 Preimplantation genetic test)は体外受精治療の際、胚を子宮に移植する前に、胚の遺伝子や染色体を調べ、妊娠継続しやすい胚や、病気を発症する可能性のない胚を選ぶという検査です。

PGTは以下の3種類に分類されます。 

  1.  PGT-A(着床前胚染色体異数性検査:Preimplantation genetic testing for aneuploidy) 女性の年齢の上昇につれて増える染色体の異数性を調べる検査
  2. PGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査:Preimplantation genetic testing for Structural Rearrangement)カップルのどちらかが転座、逆位などの染色体の構造異常の保因者である場合に起こる染色体の部分的不均衡を調べる検査
  3. PGT-M(着床前胚染色体異数性検査:Preimplantation genetic testing for Monogenic/Single gene defect)夫婦の両者またはいずれかが,重篤な遺伝性疾患児が出生する可能性のある遺伝子変異または染色体異常を保因する場合に日本産科婦人科学会による審査を経て行われる。重篤な症状を持つ児の出生を避ける目的で行われる検査

PGT検査は日本産科婦人科学会が認定した施設で、学会の決めた条件を満たす患者さんに行われています。2024年5月12日現在 PGT-A 222、PGT-SR 118、PGT-M 38施設が認定されています。

検査の対象

  1.  PGT-A   反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する不妊症の夫婦、反復する死流産の既往を有する不育症の夫婦
  2.  PGT-SR   夫婦いずれかの染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている不育症(もしくは不妊症)の夫婦
  3.  PGT-M    夫婦の両者またはいずれかが,重篤な遺伝性疾患児が出生する可能性のある遺伝子変異または染色体異常を保因する場合に日本産科婦人科学会による厳正な審査を経て行われる。

2024/05/19

35歳を過ぎたら専門家に相談して妊娠出産への道筋の効率化を

 

「不妊治療は思い立ったら即行動を」の稿で妊娠の適齢期は25歳から35歳と言いました。

図1.は20~24歳を100%とした場合の妊孕性(妊娠する力)の低下を示すグラフです(日本生殖医学会ホームページより)。自然妊娠のしやすさを示します。

図2.の緑の線は体外受精治療後の出産率を示しています(日本産科婦人科学会ARTデータ)。35歳では出産率が約20%ですが、35歳を過ぎると急激に下がっていく。35歳を過ぎると体外受精治療をしても妊娠は難しくなるという事がおわかりいただけると思います。

 

図1.女性の年齢と妊孕力の変化

図2.体外受精後の妊娠率・生産率・流産率 2021

35歳を過ぎて結婚した、あるいはそろそろ子供が欲しいと考えた、という場合に、まず自然妊娠で様子を見ようと自己判断で時間を使ってしまうのは非常に危険です。専門家に相談し、確認のための検査などを受けたうえで、自身にあった計画を立て、専門家に伴走してもらい、経過を見極めながらステップアップして、出産というゴールまでパートナーと二人でたどり着く、妊娠計画の効率化をお勧めします。


2024/05/10

AMH(抗ミュラー管ホルモン)の検査を知ってますか?

 

不妊治療の方針を決めるときに自分の卵巣の状態を知ることは重要ですね。

卵子のもとの細胞は女性が胎児のときに一生分が作られます。妊娠5~6か月では700万個ほどあるのですが、出生時には200万個、その後は一方的に数が減っていき月経がはじまるころにはすでに20~30万個、閉経時にはほぼ0です。卵子の質はともかく、数が減るので年齢が高くなると妊娠は難しくなります。また、数の減り方は個人差も大きいです。

卵巣の状況を知るうえで一つの目安になるのがAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値です。

卵巣の中では保存されている卵子のもとの細胞の中から毎月500~1000個が発育を始めます。その中から、2か月後の生理の頃に5~10個が4~7㎜の大きさの卵胞にまで育ち、FSH(卵胞ホルモン)やLH(排卵誘発ホルモン)の刺激を受けることができるようになります。そして2週間後に1つ排卵されるのです。

AMHは発育初期の卵胞が分泌しているホルモンで、育ち始めている卵胞の数の目安となるホルモンです。たくさんの卵胞が育ち始めていればたくさん分泌され、少ししか育ち始めていなければ、AMHの値は低いということになります。

AMHの値が高い場合は排卵がうまくいきにくい多嚢胞性卵巣症候群の可能性を考える必要がありますし、低いと卵巣機能の低下の心配もあります。体外受精を行う場合には、誘発方法の選択の目安としても用います。

AMHの値によって、治療を急ぐ必要があるのか、一度にたくさん採卵することは難しいのかなど予想することも可能です。

自身の治療の見通しを立てるうえで大きな役割を果たすAMHの測定をしてもらうことは大切ですね。

2024/05/07

不妊治療は妊娠できない原因を探っていく治療

 生殖可能な年齢にある男女が避妊することなく性交渉を行っていても妊娠しない状態がある期間続けば不妊といいます。現在では1年間妊娠しない場合に不妊と考えるのが一般的です。しかし、1 年経っていなくても、その男女の年齢を考慮して、不妊の原因がないか検査や治療をすることもあります。

不妊治療を始めようというときどんな治療法があるの? どの治療を受けるのが良いの? 高いお金を払って高度な治療を受ければ早く妊娠できるの? いろいろ考えるかもしれませんね。

不妊の原因は女性、男性、男女両方、原因不明、それぞれ同じくらいの割合です。診察は必ずパートナーと二人で受けましょう。

感染症検査、性ホルモン、甲状腺ホルモン、子宮、卵管に問題はないか、精子はうまく作られているのか、排卵はできているのか専門医に検査をしてもらいましょう。

何らかの問題が見つかった場合には。感染症の治療、血糖コントロール、甲状腺の治療、排卵誘発、卵管や子宮、精巣静脈瘤の手術など問題をクリアするための治療が必要です。

その後、タイミング法、人工受精などの通常の不妊治療、それでも妊娠できない場合は体外受精や顕微授精などの高度生殖医療へとステップアップしていくのが普通なのですが、卵管が通っていない場合、精子の数が極端に少ない場合などには、最初から体外受精や顕微授精などの高度生殖医療が必要となることもあります。


ステップアップというのは、

  タイミングが合っていないだけなのかな? 排卵日を確認することで受精の確率を上げるタイミング法、

  精子と卵子が出会っていないのかな? 精子をより卵子の近くまで届けて受精の可能性を上げる人工授精、ここまでは女性の体内での治療となります。

  精子と卵子をこれ以上は近づけることができないので、体外に取り出し、確実に受精、胚分割が始まったことまで確認したうえで子宮に戻してあげる、体外受精、顕微授精

このように、どこに問題があるのかということを確認していくということです。

ステップアップするにつれて、より自然妊娠に近い治療からより人為的な方法へ、女性の体への負担の少ない方法からより負担の大きい方法へという流れになり、費用負担も大きくなっていきます。

どの方法も、およそ何回くらいまでは繰り返すと累積妊娠率は上がるがそれ以降は妊娠の確率はあまり上がらないということが統計的に調べられていますので、1つの方法をある程度の期間試したら次のステップに進むことをお勧めします。

ステップアップのスピードは年齢、それぞれの方の状況により異なりますが、ご本人とパートナーの方が納得して治療を進めていくことが一番大切なことです。

2024/04/23

不妊治療は思い立ったら即行動を

 

日本では40%の夫婦が不妊を心配したことがあり、4組に1組の夫婦が不妊治療を受けています。

なぜこんなにも多くの夫婦が治療を受けなければならないのでしょうか? 大きな要因は出産を希望する方の年齢が高いということです。

女性の妊娠適齢期は25歳から35歳です。その年齢を過ぎると何らかの補助が必要になります。不妊治療の成功率は年齢に伴って低下していきます。どんなにお金をかけて高度な治療を受けても40歳以上の方の治療成功率は10%以下です。

1日でも早く行動を起こすことが大切です。

「私は見た目も若い、体力もあり健康に自信があるから体はきっと若いはず」と話される方がいますが、自然の準備した人生のプログラムを覆すことはできません。残念ながら、妊娠力は年齢相当です。

ですから、躊躇している余裕はないです。年齢がまだ若いからとか、健康だから大丈夫なはずと行動を起こさないでいると、いざ出産しようと思ったときには間に合わなくなっている可能性ありますよ。

年齢が高くなっていざ検査したら問題が見つかったとなっても、有効な選択肢は限られてしまいます。まず、何らかの妊娠しにくい要因はないのか夫婦で検査だけでも受けてみましょう。何か見つかれば、それに対応する手段を考える必要があるし、特に何もなければ年齢相当の時間的余裕はあるということがわかりますね。

ただし、妊娠出産は計画通りにはいかない、実際に出産できて初めてうまくいったといえるものだと考えていただくことは重要です。

卵子や受精卵を凍結したから大丈夫という保証は全くありません。「子供は複数欲しいので、まず受精卵を確保したいです。何個染色体正常胚を凍結すれば2人目まで出産できますか?」という質問をよく受けます。「何が原因で妊娠できないのかはわかりません。いくつ保存しておいても一つもうまくいかないこともあります。予定は立ちません。まず一人目を目指しましょう。」とお答えしています。

自身が治療を受けてみて、自身の結果を見ながら次の選択を考えていくことは大切です。

2024/04/19

不妊治療の実績

 昨日の読売新聞朝刊に「主な医療機関の不妊治療に実績(2022年)」という表が載りました。

読売新聞が高度な不妊治療を行う施設として日本産科婦人科学会に登録された617施設に、22年の診療実績などを調査し、198施設(回答率32%)から回答を得、体外受精の胚移植80件以上の施設を掲載したというものです。

この表が実態を把握できているものなのか? そうではないですね。この表に多くの有名なクリニックの情報は出てないです。回答しなかったということですね。

私は神戸の大谷レディースクリニックで昨年まで10年間以上遺伝カウンセリングをしていました。当時大谷レディースは日本で唯一多くの着床前検査(PGT-A、PGT-SR)の実施を公表しているクリニックだったので、全国から患者さんが検査を受けたいと来院されました。PGTを受ける前には必ず夫婦で遺伝カウンセリングを受けていただくということになっていましたので、5000組以上の患者さんと話したということになります。患者さんの話からどこのクリニックでどんな治療をしているのか把握しています。千差万別、信じられないくらいピンからキリまで色々です。

PGTを受けるにも、高度生殖医療を受けるのにも、実施施設の技術力が結果に大きくかかわってきます。各クリニックの実力を患者さんが把握して受診施設を選ぶことができる仕組みを作ることが必須だと思います。今の仕組みではクリニックの実態は患者さんにはわからない。

高度生殖医療の実施状況はすべて産科婦人科学会に報告する義務があるのですから、患者さんのための学会なのであれば、各クリニックの治療結果を明示するとともに、日本の生殖医療の水準を上げるために力を発揮してほしいと考えます。

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