自己紹介

オンライン遺伝カウンセリングルームジーヌ代表。日本で唯一認定遺伝カウンセラーと生殖医療診断士、両方の資格を持つカウンセラーです。長年不妊治療クリニックで遺伝カウンセラーとして多くの患者様の相談をお受けしました。 現在は、不妊治療患者さんのためのオンラインカウンセリングルームジーヌを主宰しています。 特に、PGT-A・PGT-SR検査に関しては、日本産科婦人科学会の認定制度の発足以前より、PGTを希望されるカップル(ご夫妻)延べ5,000組、10,000名にカウンセリング、さらに、PGTの結果として検出されるモザイク胚の移植についての相談も1000件以上受け、多くの健康なお子さんの誕生のお手伝いをさせていただいております。

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2024/08/03

PGT-A・PGT-SRカウンセリングの魅力

 PGT-A、PGT-SRを希望なさる患者さんの大部分は、体外受精を繰り返したが妊娠できない、流産を繰り返した、染色体の転座が判明したなど、様々な困難を経験し、何とか改善できる方法を知りたいと遺伝カウンセリングを受けられます。

遺伝カウンセリングでは、染色体の説明、染色体のアンバランスが生まれる仕組み、確率、PGTの検査方法、出産に至る確率、検査の問題点など科学的な説明をしたうえで、患者さんと一緒にPGTを行うことで現状が改善できるのかどうかを考えています。

お一人お一人の詳しい状況を分析したうえで、有効性がどのくらいありそうなのかを一緒に考え、検査を受けたたら、その結果を見ながら不妊治療の方針を修正していくことが大切、いつでも一緒に考えさせていただきますので相談してくださいと話しています。

遺伝カウンセラーの話は、どちらかというと科学的な内容がメインで、心理のカウンセラーさんとはかなり異なるのだと思います。

患者さんの状況を科学的に分析して話すことで、自身の状況が整理され問題点などもはっきりさせることができるメリットはあると思います。特に男性のパートナーの方が、初めて自分たちはどのような治療を受けているのか、なぜ困難な状況なのかを理解や納得でき、それからは治療に協力的になるということもあるようです。

カウンセラーの私としては、カウンセリング終了時に、患者さんが次はこのようにしてみようと希望をもって明るい表情になってくださるととてもうれしいです。

 

遺伝カウンセリングは、自身あるいは家族が何らかの遺伝性の病気にかかっているのだとわかった、あるいはその疑いがあるから検査をしましょう、または、妊娠したけれど、お腹の赤ちゃんに病気があるかどうかが心配という場合に受けることが一般的です。

その場合、もう人として存在している個人あるいは胎児に特定の遺伝性の病気があるかどうか、そうであればどのように対処しようかということが問題です。もう起きてしまっている事象についての相談です。

 

PGTのカウンセリングは通常の遺伝カウンセリングとは異なる特徴があります。心配の対象が、まだ影も形もないこれからできる受精卵(胚)の染色体や遺伝子だということです。通常の遺伝カウンセリングのように実際に存在する遺伝上の問題を考えるのではなく、起こりうるすべての可能性を考え、それらがPGT検査で検出できるのか、健康に赤ちゃんが生まれてくるのはどのくらいの確率なのかを考える必要があるのです。大げさに言えば、遺伝について学んできたすべての知識を動員して考える必要があります。これはPGTカウンセリングの醍醐味ではあります。

けれども、私が感じている一番の魅力は、PGTカウンセリングは、遺伝の本質、生物の素晴らしさを伝えることが可能な、多分唯一の場面だということです。

私は、小さい時から生き物が大好きでした。最初に進化について興味を持ったのは、多分5歳くらいの時、父から「人間は昔お猿だったんだよ」と言われた時です。びっくりして、「じゃ動物園のお猿も長い時間経つと人間になるの?」と聞きました。そうしたら、「そうはならないと思う」と父は答えました。一体どういうことなの?それから70年近く、私はその延長線上にいます。

大学時代は虫をいっぱい飼っていました。大人になってからは研究所や大学の研究室でマウスを何万あるいは何十万匹も飼って遺伝子の分析をしていました。そうすると、しょっちゅう変わった特徴を持つ奴が目に付くのです。体の各部分のバランスが悪かったり、生まれないはずの毛色だったり、突然変異ですね。私にとって突然変異は普通で当たり前のことです。変異できる特徴があるから単細胞生物から人類にまで進化できたのだし、素晴らしい生物の戦略だと思っています。

しかし、世の中では遺伝性の病気というのはとんでもない事、自分にはかかわりのない事と思われていることが多いようで、その陰で非常につらい思いをしている方がたくさんいらっしゃいます。少しでもその方たちの力になれればと遺伝カウンセラーになるための勉強をしました。

PGTカウンセリングの魅力に話を戻しますと、カウンセリングに来られるカップルは、まだ特定の遺伝病が問題になっているわけではないので、誰にでも起こる染色体の数の異常、また偶然起こる染色体の部分的な構造異常についての説明をします。減数分裂の仕組み(卵子や精子のできる過程)についての説明、染色体異常は高頻度で誰にでも起こることを説明するわけです。

ここで必ず、一組のカップルから出来得る配偶子の種類は無限だ、減数分裂こそが多様性を保証する大切な仕組みなのだという話もします。多様性を保証するからこそ間違い(変異、遺伝性の病気)も起こるのだと。

「あなたの病気は偶然で、たまたまあなたに起こっただけのことです。普通のことです」などという話を病気の患者さんや、お子さんの病気を心配している方に話せば傷つけてしまいます。PGT以外のカウンセリングでこのような話をすることは難しいです。

もし、PGTのカウンセリングを受けてくださった方が、将来何らかの遺伝的な問題に出会ったとき、あのカウンセラーが変異は普通のことと言っていたなと思い出してくださって、少しでも気持ちの整理につながるようなことがあれば、うれしいなと思いながらカウンセリングをしています。

好きな遺伝や生物のすばらしさについての話をするのは楽しいですし、聞いてくださった方の中でたまに、「カウンセラーになるにはどんな勉強をすればよいのですか?」「私も遺伝カウンセラーになりたいです。」と言ってくださる方がいらっしゃるのはカウンセラー冥利に尽きます。

 

2024/07/13

遺伝カウンセリングルーム ジーヌ紹介

 不妊治療の患者様のためのオンライン遺伝カウンセリングルーム ジーヌを開設しています。

全国どこからでもご都合の良い時間にカウンセリングを受けていただくことが可能です。

不妊治療は治療法、検査などの選択肢も多く、また必ずしも順調に進むとは限りません。 妊娠できる期間も限られており、自分はどんな治療を受けるべきなのか迷い焦ることも多いのではないでしょうか。

認定遺伝カウンセラー®は妊娠や出産にかかわる年齢の影響、リスクなどについて科学的な知識をお伝えする中で、治療選択についても一緒に考えさせていただく専門職です。認定遺伝カウンセラー®は現在全国に388名(2024年3月現在)いますが、不妊治療分野のカウンセリング経験が豊富なカウンセラーはごくわずかです。

 年齢にかかわらず体外受精がうまくいかない、流産を繰り返す背景に染色体が関わっている場合も多いです。治療が思うように進んでいない場合などに、治療や検査の状況について相談いただき、PGT-Aを含め、治療継続の方向性を一緒に考えさせていただくのは患者さんの負担を減らすうえで役に立つと思います。

知識と経験が豊富な専門家に相談してみませんか?

じっくり時間をかけて相談していただくことで、ご自身が納得して治療を受けていただくお手伝いが出来ればと願っております。

 

不妊治療を受けようかどうか決めかねている方、お腹の赤ちゃんの病気を心配する方、出生前検査やPGT-Aの結果の解釈に迷う方、モザイク胚の移植の可否、移植後の不安について、妊娠中に何らかの異常を指摘され心配など、ご相談いただきましたら一緒に考えさせていただきます。


詳しくはホームページをご覧ください。

遺伝カウンセリングルーム ジーヌ

https//www.gene.nanopolytec.org/

 


2024/07/01

PGT Ⅺ. 現在行われているPGT-Aをどう評価するか

 前回まで発表した論文について解説してきました。

論文で以下の2点が明確にできたと考えています。

  初めてIVFを受ける患者さんであれ、事前にIVF不成功経験のある患者さんであれ、背景にかかわらず、全年齢にわたって、PGT-Aを受けた患者さんは受けなかった患者さんと比較すると、移植あたりの臨床妊娠率は有意に高く、臨床妊娠後の流産率は有意に低い。

これは海外の大規模RTC(後方視的ランダム化比較試験)では確認できなかったことです。技術力が一定以上に達していなければ、この結果は得られないと考えます。 

  初めてIVFを行う患者さんにとってはPGT-Aは必要性の高い技術ではない。しかし、IVF不成功経験のある患者さんにとっては負担を軽減できる有効な方法である。

                        

現在、PGT-Aは、産科婦人科学会の取り決めで、反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する不妊症の夫婦及び、反復する死流産の既往を有する不育症の夫婦を対象として全国223施設(2024年6月30日現在)で行われています。

 

臨床実施に先立ち2019年~2022年に、全国約200施設で行われた、日本産科婦人科学多施設臨床研究の結果が、論文として発表されています。

Preimplantation genetic testing for aneuploidy and chromosomal structural rearrangement: A summary of a nationwide study by the Japan Society of Obstetrics and Gynecology

Iwasa et.al Reprod Med Biol. 2023 May 31;22(1):e12518

その結果を私の発表した論文の結果と比較してみました。

反復する体外受精胚移植の不成功の既往と反復する死流産の既往ですから、私の論文のIVF不成功者グループと比較するのが良いと思います。

結果を表にまとめました。

結果に大きな差はないですね。

ここから現行のPGT-Aについて以下のように考えます。

  全体としてみれば、技術的水準は高い。

臨床研究が約200施設、現在PGT-Aを行っているのが223施設ですから、ほとんどの施設は臨床研究にも参加していたと思われます。施設ごとの技術力の差はあったかもしれませんが、全体としてみれば技術水準は高く維持されています。

  対象を、2回以上の体外受精胚移植の不成功と、2回以上の死流産の既往に限定していることについても、私の発表論文で示したように、IVF治療がうまくいっていない患者さんにPGT-Aは有効なわけですから、不必要なPGT-Aが繰り返されることを防ぐうえで、一律に現在の対象に限定しているというのは、適切であろうと考えます。

  基準に当てはまらなくてもPGT-Aの有効性が高い場合も多い。その方たちがPGT-Aの対象にならないということは起きます。本来は、患者さん毎に個別に丁寧なカウンセリングを行い、PGT-Aの有効性、可否を患者さんと相談して決めるのが理想です。しかし、現状では各施設の経験も知識も力量も不足しています。 

高額の費用負担が必要なため、有効性が高いと考えられる患者さんも、PGT-Aを受けることを躊躇してしまっています。現在、一部の施設で行われている先進医療Bの結果が出て、多くの施設で保険診療との混合診療が可能となれば、費用面でも検査を受けやすくなります。そうなることを願っています。

日本でPGT-Aの経験が積まれて、適切で丁寧な遺伝カウンセリングが行なえるようになることを願っています。


2024/06/26

PGT Ⅹ. 累積出産率の比較(発表論文より)

 移植当たり、採卵当たりではなく、長期的視野で見た場合のPGT-Aの有効性を評価しようと累積出産率(時間経過とともにどのくらいの割合の患者さんが一人目の子を出産するのか)について、初回IVFグループと事前IVF不成功グループについて、それぞれ年齢グループ別、PGT-Aの有無別に比較しました。

 









結果

全年齢層で初回IVFグループはPGT-Aを行わない場合の累積出産率の方が高い傾向がみられ、逆にIVF治療不成功経験者のグループではPGT-Aを行った場合の方が累積出産率は高い傾向がみられました。ただし、有意差が認められたのは35歳以下の初回IVF患者グループの場合と、38歳-40歳のIVF不成功経験者グループの場合のみでした。

 

 

今回の研究で明らかになったこと

 

   初めてIVF治療を開始しようとする患者さんに初めからPGT-Aを薦める必要はない。 

Ÿ 初回IVFグループではPGT-Aを受けなくても54.4%の患者さん、特に若い患者さんの場合、35歳以下では76.6%、35-37歳では57.9%が1回目の採卵後、1~2回の移植でほぼ流産せずに出産できている。

Ÿ 全ての年齢層でPGT-Aを行わないグループの累積出産率が高い。

Ÿ 出産に至るまでの期間はPGT-Aを行わない方が短い。

 

   初めてのIVF治療を開始し、1回目の採卵後、獲得できた胚を移植しても出産に至らなかった場合には、次の採卵からはPGT-Aの有効性はあると考えられる。PGT-Aを行うと移植に進めない患者は多くなるが、繰り返す移植の失敗、妊娠後の流産を減らすことができるので、患者の負担を軽減することができる。

Ÿ   技術力の高い施設でPGT-Aを行えば、PGT-Aを行うことで、移植当たりの妊娠率は上がり、流産率は低下する。

Ÿ   PGT-Aを行っても、行わなくても、採卵回数に違いはない。

Ÿ   PGT-Aを行うと移植できる患者は減り、移植回数も減少するが、移植した患者当たり、あるいは、移植周期毎の出産率は高くなる。

Ÿ   PGT-Aを行った場合、行わない場合に比べ累積出産率が高い傾向がみられる。特に38-40歳では有意に高くなっている。

 

   いずれにせよ患者本位の丁寧なカウンセリングは必須である。

 

   研究の限界

Ÿ   単に1治療施設の患者さんの治療報告であり、グループの毎の患者数に大きな違いがある。個々の患者さんの詳しいバックグラウンド情報も整理されていない。

Ÿ   第一子出産までの研究であり、もし、染色体情報の良い胚を複数確保できていれば、第2子、第3子につながる可能性もある。PGT-Aを受検する患者さんには複数の移植可能胚を確保しようとする傾向があり、それが治療期間を長引かせている原因である可能性もある。PGT-Aの真の有効性を論じるのであれば、患者さんの全生殖期間にわたる有効性の研究が必要となる。

 

 

2024/06/25

PGT Ⅸ. PGT-A受検前後の患者負担の比較(発表論文より)

 事前IVF不成功経験のある患者さん702名の、PGT-A受検前後の経過を比較しました。



PGT-A前後で平均採卵回数に差はありませんでした。



PGT-Aを行うと胚盤胞まで育っても、PGT-Aの結果移植可能胚が見つからないということが起こります。年齢が上がるにつれて移植胚が見つからず移植できずに治療終結する患者さんの割合は増加します。42歳以上の患者さんでは138人中22人(15.9%)の患者さんのみ移植することが出来ました。



移植した患者さんの平均移植回数です。PGT-A後の平均移植回数は1.2回、年齢によって差はありません。移植を繰り返すということは無くなりました。

 



702名中428名がPGT-A受験前は流産を繰り返していたのですが、PGT-A受検後流産した患者さんは28名、流産をした患者さんの平均流産回数は1.14回。流産はほぼ防ぐことが出来ています。



IVFを行い、移植の不成功、流産を繰り返した出産経験のない702名の患者さんが、PGT-Aを受検した結果、4年間に251名(35.8%)が出産することが出来ています。

 

考察

同一の患者さんのPGT-A受検前後の経過を比較できたということは貴重なデータと言えます。

平均採卵回数に違いはないですが、移植回数、流産回数を有意に減らせたということは明らかで、患者さんの負担は軽減されています。

出産経験のない多くの患者さんが出産できているのは事実ですが、これはPGT-Aを行ったから出産できたのだと考える根拠にはならないと考えます。PGT-Aを行わなくても治療継続することで出産できた可能性も十分あります。また、PGT-A受検前の治療経過、期間等については採卵回数、移植回数、流産回数以外は把握できていませんので、出産にかかわるPGT-Aの影響を検討することはできません。

2024/06/21

PGT Ⅷ. PGT-Aの有効性 事前IVF不成功経験者の場合(発表論文より)

 体外受精(IVF)をした経験があり、PGT-Aを受検した患者さんのうち出産の経験のない702名を事前IVF不成功PGT-Aグループ(PGT-A)、初めてIVFを行い1回採卵後出産に至らなかった363名のうち186名は通常のIVF治療を継続されました。(下のグラフのオレンジ色の部分)この患者さんたちを事前IVF不成功非PGT-Aグループ(非PGT-A)としました。


 PGT-A、非PGT-A、グループ間の年齢構成に差があります。


38歳以上ではPGT-A受験者の採卵回数は有意に多くなります。


PGT-Aを行うと、胚移植を行うことができる患者さんは減ります。

 

PGT-Aを行うと移植回数は有意に減少します。

 

PGT-Aを行うと、移植当たりの臨床妊娠率(胎嚢が確認できた確率)は、すべての年齢で有意に高くなります。IVF不成功経験者の場合は、年齢の若い患者さんのでも、PGT-Aを行った場合の方が妊娠率は高くなっています。

 

PGT-Aを行うと年齢にかかわらず、流産率は低くなります。ただし、染色体にはかかわらない不育症がある場合はPGT-Aを行っても流産率は下がりません。

 

PGT-A検査を行った場合と行わなかった場合で、出産した患者の割合に有意差は検出されませんでした。PGT-Aを行うことで出産できる患者の割合が増加するということはありません。


体外受精治療開始から第一子出産までの治療継続時間は、PGT-Aを行った患者で短いという傾向はみられますが、有意差は検出されていません。38歳以下の患者では有意に短縮しています。

 

考察

PGT-Aを行っても出産に至る患者さんの割合が増えるということはありませんが、移植回数、妊娠後の流産は大きく減少します。

IVF治療の不成功を経験した患者さんの場合、PGT-Aを行うことで、IVF治療の負担を大きく減少させることはできます。身体的、精神的負担を減らすことにより治療を続け出産につながる可能性もあると考えます。

2024/06/19

PGT Ⅶ. PGT-Aの有効性 はじめてのIVFの場合(発表論文より)

2016年の1月1日から採卵を開始し1個以上胚盤胞を育てることができた、2113名の患者さんを研究対象としました。最終移植日2019年3月31日、最終出産確認は2019年12月31日です。

初めて体外受精をする患者さんは1249名(初回IVFグループ)、そのうち453名がPGT-Aを受検(PGT-A)、796名はPGT-Aを受けませんでした(非PGT-A)。


PGT-Aを受けない患者さんは若い人に多いことがわかります。


PGT-A受検者の採卵回数は有意に多い。特に高齢になるほど多くなります。


PGT-Aを行うと、胚移植を行うことができる患者さんは減ります。

PGT-Aを行わない場合は胚盤胞まで育てば移植可能ですが、PGT-Aを行うと、検査の結果、移植可能胚が得られない場合があります。移植可能胚が得られない可能性は年齢が上がるにつれ増加します。


PGT-Aを行うと、移植回数は有意に減少します。


PGT-Aを行わない場合年齢が上がると妊娠率は下がりますが、PGT-Aを行うと、移植当たりの臨床妊娠率(胎嚢が確認できた確率)は、年齢にかかわらず70%近くと有意に高くなります。ただし、35歳以下ではPGT-Aの有無により妊娠率に差はみられていません。42歳以上のPGT-A受験者の妊娠率が100%となっていますが、移植回数が10回とデータが少ないため結果に偏りがあるものと考えられます。


胎嚢確認後の流産率です。

PGT-Aを行うと年齢にかかわらず、流産率は低くなります。ただし、染色体にはかかわらない不育症がある場合はPGT-Aを行っても流産率は下がりません。


初めてIVFを行った場合、PGT-Aを行わない患者のグループの方が出産に至った患者の割合は高くなります。特に38歳以下の年齢の若い患者の出産率は高いです。

42歳以上のPGT-Aを行った患者の妊娠率が高いですが、この年齢の患者数が少ないための偏りと考えます。

PGT-A受検患者グループの成績が良くないのは、IVF開始時点でPGT-Aを希望した背景に、流産を繰り返したなど、何らかの妊娠が困難な事情がある場合が多いためではないかと推測します。


体外受精治療開始から第一子出産までの治療継続時間はPGT-Aを行ったグループで優位に長くなっています。「PGT-Aが出産までの時間を短くするメリットがある。」とは今回の研究からは言えません。背景には患者さんの体質的な背景の違い、折角PGT-Aをするのだから移植する前に複数個の移植可能胚を確保しておきたいなどと考える考え方の違いなど、さまざまの要因が絡み合っているのではないかと推測します。



初めてのIVF、PGT-Aを受けなかった患者さんの1回目の採卵後の経過

1回の採卵の後出産される患者さんは多いです。38歳以下の患者さんでは半数以上の方が出産できています。

出産した患者さんの平均移植回数1.35回、移植当たり臨床妊娠率80.2%、流産率7.7%、大部分の方は1回採卵すれば大きなトラブルもなく出産できていることがわかります。

最初の体外受精からPGT-Aを選択する必要性は高くはないのではないのでしょうか。

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